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早慶戦観戦記

第62回早慶対抗柔道戦 (平成22年10月14日)

10月14日、第62回早慶対抗柔道戦が、早稲田の道場にて行われました。誠に僭越ではございますが、平成21年卒の友水拓也がご報告をさせていただきます。

今回の早慶戦は、総当たり方式、および部員数の関係で16人制の形式で行われました。早稲田の学生は怪我人や学連に所属する者を除き、全てが試合に参加しました。「早慶戦」。両校の誇りをかけた伝統の一戦。それは、両校のOBや関係者の方々が多く集まったこの光景に、端的に表されます。もちろん、その主役となる学生達にとってもこの試合が特別でない訳はありません。

第62回早慶対抗柔道戦開会式

しかしながら、HP上の結果報告でご周知のように、今回の早慶戦は、2引き分けを含む6対8で、早稲田の敗北に終わりました。早慶戦での敗北は、通算で8回目、平成に入ってからは第60回(2008年)以来の2度目となります。

では、現在、学生達の練習が不足しているかというと決してそのようなことはありません。特にこの一年は、東伏見寮での朝練に、寮生はもちろんのこと、寮外生も毎日参加し、時にはトレーニング合宿を敢行するなど、身体面での練習量は、例年に比べても申し分ないものであったといえます。なによりも、金子主将をはじめとした4年生達は、並々ならぬ決意を持ってこの「早慶戦」に臨んでいました。

第62回早慶戦が始まりました。早稲田は立ち上がりから非常に苦しい展開となります。

早稲田次鋒の3年生佐藤(新年度副将)が背負投で、5人目(12将)、1年生のキアラシが相手の背負投を返してともに一本勝ちを収めましたが、そこまでの時点で、2-3とされます。早稲田先鋒の3年生上田(新年度主務)に対する、慶應先鋒の1年生藤井選手が、東海大付属相模高校の出身で、国際大会で優勝を収めるほど実力のある選手であった事もありますが、3人目(14将)、1年生の野口と、同じく1年生の慶應高橋選手、および4人目(13将)、3年生の松井と慶應2年生大前選手の身体的な実力は、ほぼ拮抗しているといっていいものでした。

先鋒:上田(3年) - ○大外刈 藤井(1年) 

上田君は試合開始直後、積極的に攻めようと試みるものの、早々に藤井選手にがっぷりと組まれ、左の大外刈で一本負に終わります。

次鋒:佐藤(3年) ○背負投 - 福井(4年)

次鋒戦は、3年生の佐藤と慶應副将の福井選手との対戦でした。ケンカ四つの体勢からお互いに足技を出す展開となりますが、佐藤は前回りさばきでうまく相手の懐にもぐりこみ、右の背負投で攻め続けます。所々で左の背負投もはさんで、最後は場外際の右背負投で一本として、試合を決めました。

野口(1年) - ○優勢勝(技有)  高橋(1年)
松井(3年) - ○小内刈  大前(2年)
キアラシ(1年)○背負い返し - 島田(4年)

前述のように、実力の拮抗した選手同士の試合です。しかし、野口は「早慶戦」のプレッシャーからか技の出が遅く、組手においても、相四つのはずながら終始相手に右奥襟を持たれて引き手をきかせることができず、試合を有利に運ばれてしまいました。そのような体勢の中、逆技の左背負投をみせるなど何度かおしい場面もありましたが、終盤、高橋選手が先に内股をかけてきた所を受けてしまい、それを返そうとするものの、もつれて技有を奪われてしまいます。試合はそのまま優勢負で終わりましたが、今回の早慶戦では、こうした実力が近い試合の多くの場面で慶應側が積極的に前に出て、先に技を出していたのが印象的でした。

また、松井と大前選手の試合では、前半、松井が積極的に前に出て先手をとっていたものの、中盤に背負投(あるいは、相手の左背負投を受けたところを、逆に落ちてしまって)で有効を奪われ、後半には左足を負傷し、最終的には小内刈で一本をとられてその試合は終りました。両者ともに思う通りの試合運びができていなかったというのが印象です。

続く1年生100kg超級のキアラシともう一人の慶應副将の島田選手の試合でも、前半はうまく試合運びができていませんでした。キアラシは思うように相手の背中辺りを持つことができず、軽量級の体格を活かした島田選手の小内巻込によって有効を2つ、技有を1つとられます。そうした流れの中にありつつも、中盤以降は攻め続け、最後には島田選手の背負投を後ろへ返して、貴重な一勝を挙げました。

堀(2年)○朽木倒 - 高辻(1年)

早稲田の6人目(11将)は73kg級の堀。対する慶應は190cm・100kgの1年生高辻選手でした。この堀の試合はすばらしい試合で、高辻選手はその体格を活かして、ケンカ四つの体勢から積極的に組み手をしかけ押し込んでくるものの、それを体さばきで巧みにコントロールし、最終的には小内刈からの朽木倒で一本勝を収めました。まさに「柔よく剛を制す」の言葉にふさわしい柔道だったと思います。

早慶対抗柔道戦 早慶対抗柔道戦

堀が勝利し、3-3と戻すものの、再び早稲田にとって苦しい展開が続きます。

福井(2年) - ○背負投 檜垣(2年)

7人目(10将)、2年生の福井は、対する2年生檜垣選手に先手をとられ、試合開始早々に背負投による一本負という結果に沈みました。この試合でも、慶應側が積極的に前に出て、先手をとっていたのが印象的でした。

岡田(4年) - ○横四方固 西口(3年)

8人目(9将)、4年生の岡田は、慶應3年生の西口選手に対して積極的な組手をおこない、先手先手で技を出すとともに、時には逆の技につなぐなどして善戦しました。しかしながら、自力に勝る相手からポイントをとるまでには技が続かず、終盤にもつれたところから上四方固・横四方固と押さえ込まれ、一本負を喫します。

中堅:石原(2年) - ○内股 小倉(3年)

中堅戦、早稲田の2年生石原(新年度副務)に対し、慶應側は、毎年全日本学生に出場している、184cm・84kgの小倉選手。石原は小内刈などの足技から崩そうとするものの、残念ながら地力の差を埋められず、これも早々に内股で一本をとられ、勝負を決められてしまいます。

星野(1年) -優勢勝(警告) 山本(1年)

10人目(7将)は、早稲田1年生の星野に対し、同じく1年生の慶應山本選手。この試合も3人目(14将)の野口の試合と同じく、1年生、かつ実力が拮抗したもの同士の試合となりました。

この試合も観戦していて非常に悔しい試合でした。星野は普段、大きく背負投に入る選手で、試合中も何度かそのような場面があったものの、この時は全体的に技が小さくなってしまっている印象を受けました。ケンカ四つの姿勢で、相手の山本選手は大内刈を中心に攻めてくるのに対し、序盤に場外注意を与えられてしまいます。その焦りからか足技などで相手を崩す前に背負投に入る場面が多かったように思えます。終盤にも押し込まれる展開から2つめの場外注意を与えられた結果、優勢負に終わります。

10人目までの時点で3-7と、差は開きます。

牛丸(4年) 引き分け 上原(2年)

11人目(6将)、この試合も6人目(11将)の試合と同じく非常に良い試合だったと私は思います。4年生の牛丸に対し、慶應は3年生の176cm・88kgの鈴木(新)選手。牛丸は66kg級ですので体格で大きく劣ります。試合序盤、ケンカ四つの体勢から積極的に左の奥襟を持ちにくる鈴木選手に、左の膝車によって技有を奪われます。しかし、技有を奪われた後は積極的に前に出て、所々相手の浅い左内股を透かして右の払腰などへ繋げて反撃の機会を待ちます。終盤、不用意な相手の左小外刈を返し、技有を奪い返して、試合を引き分けとしました。

牛丸君がなんとか後ろに繋いで、残すは5人。

村山(3年) ○後袈裟固 - 井上(2年)

12人目(5将)、3年生の村山(新年度主将)と慶應2年生の井上選手の対戦。村山は若干狙いすぎの観はあったものの、払腰をしかけた後のもつれた所を、後袈裟固で抑えて一本勝ちを収めます。

鉛山(4年) 引き分け 森山(1年)

13人目(4将)、4年生副将の鉛山が、慶應1年生の森山選手と対戦しましたが、スピードや体さばきの速さなどの良さを十分には出しきれず、足が止まりがちになった後半は、森山選手に体格の差を活かされて粘られ、引き分けに終わりました。

この時点で4-7、残すは3人。残りの全員が全て一本勝ちを収めれば、まだ内容差での勝利は可能です。

赤迫(2年) ○払腰 - 鈴木(新)(3年)

14人目(3将)は、先日講道館杯にも出場した赤迫と、慶應3年生の鈴木選手の対戦。試合全体の流れから一本を狙いすぎていた観はあるものの、赤迫が順当にその実力を発揮し、試合開始早々、払腰にて一本勝ちを収めます。

大将は、先日の尼崎で行われた体重別団体の2回戦(山梨学院大学戦)で唯一勝利を収めた金子主将を擁しているため、分け目は副将戦でした。

平野(4年) - ○大内刈 利國(3年)

まさにその副将戦は、早稲田4年生の主務平野、対するは慶應の3年生、非常に鋭い技を持ち、第60回(2008年)には優秀選手にも輝いたことのある利國選手でした。繰り返しになりますが、今回の早慶戦では慶應側の選手が積極的に前に出て、先に技を出している場面が目立ち、この試合も例外ではありませんでした。平野は相四つとなる相手の技を警戒して組手にこだわるものの、開始ほどなくして利國選手が組際にかけた左大内刈が決まってしまい、一本。早稲田の敗北が決まりました。

金子(4年) ○内股 - 西山(4年)

大将戦は、早稲田主将金子と、慶應主将の西山選手。早慶戦の趨勢は決まったものの、この最後の一戦は譲れないとみえて、金子が終始積極的に相手を攻めたてました。大内刈から内股への連続技を間髪いれずに出し続け、見事に内股での一本を勝ち取りました。

勝負を決める金子主将

結果は、6-8(2引き分け)です。

今回、試合を観戦した印象として、前述のように個々の選手の動きや、その運動量は決して悪くはありませんでした。加えて、堀の試合のようなすばらしいものもありました。繰り返しになりますが、この一年間、寮外生も含めた部員が毎日、東伏見寮での朝練に参加するなど、身体面での練習量を申し分なかったと言えるでしょう。

ただし、一方で最も印象深かったのは、慶應の監督陣が選手に対して、「余計なことはしなくてよい」と声をかけ、試合中に「やるべきこと」を明確にしていたことでした。「早慶戦」のプレッシャーは、当然のように両校の選手へ平等にかかります。そのような中で実力が拮抗した選手同士が対戦する場合、勝負を分けるのは「普段」からそうした状況を想定し、「普段通り」に実行することや、組み手の有利不利など試合中の細かい技術、また試合に臨む姿勢といった些細なことなのではないでしょうか。

今回、早稲田の選手が負けてしまった試合では、そのほとんどで慶應の選手は自分から前に出て先に技を出し、自分に有利な組み手を理解して、試合を上手くコントロールしていました。その例としては13人目(4将)の鉛山と森山選手との試合が挙げられると思います。鉛山はスピードや体さばきの速さで相手を上回り、序盤には低い姿勢から朽木倒・大内刈と攻めるものの、背負投など得意とする技に連続することができず、相手を崩して投げるという柔道ができませんでした。森山選手が終始、慎重な試合運びをして守りに入ったこともあり、両者の動きが止まりがちになってスピードの優劣な薄れた終盤では、体格の差(腕の長さ)によって組み手を先にとることもできないという展開にもなってしまっていました。

早慶対抗柔道戦

概観すると早稲田はこうした、細かい技術の面や、自分から積極的に技を出すという姿勢の面で、慶應に遅れをとっていたのかも知れません。吉村監督のおっしゃるように、一般生の技術向上という面では課題を抱えているといえるのかもしれません。しかしながら、こうした課題はこの度、突如噴出したわけではありません。

経験の足りない私がいうのも憚られますが、だからこそ、経験の少ない部員を論理的、かつ体系的な指導によって育てていくことが重要だと学生時代には痛感していました。何よりも、これは決して一般生に限った話でもないでしょう。

今回、早慶戦はこのような結果に終わってしまいましたが、学生達は非常に良く戦ってくれたと思います。この試合をもって4年生は引退となります。また、この4年生と次代を担う3年生は、現役のうちに2度早慶戦での敗北を味わった初めての世代です。だからこそ、彼らの心持は一段と例年とは違うことでしょう。良い意味で、部全体が「今年」は負けたと思わず、脚下を照顧し、再起を迎えんことを切に願います。

友水拓也(平成21年卒)